総特(総合特別事業計画)とは
”総特”とは、総合特別事業計画の略称であり、一言で説明すると東電新生プランの概要です
東電のあらゆる施策は、この総特に沿って計画されていると言っても過言ではありません
例えば、2013年に公表された新・総特では、以下のような表現がされています
「新・総特」は、国の方針を踏まえた東電等の役割についての復興加速化のための一括とりまとめを中核とする
「東電新生プラン」と位置付けられるものである。引用元: 新・総特(第2次総特)p10
個人的には、東電に関するあらゆる情報源のうち最も重要視しているものになります
今年2021年に第四次総特が公表されました
今回は、投資家の視点で第四次総特を読み解いていきたいと思います
本記事に記載している内容は
フリード個人の考えを記載したものであるため、参考程度に留めて頂ければと思います
今回、焦点をあてるのは以下2点です
- 資本市場への回帰(経営評価)
- 配当復活(復配)
それぞれ説明する前に、総特の歴史を紐解いていきます
総特策定の歴史
はじめの総特は、2011年に起きた原子力事故から1年が経った2012年に策定され、その後、
2013年に新・総特が、さらに2017年に新々・総特とおおよそ3~4年ごとに策定されています
そして今年2021年に公表された第四次総特は、その名の通り4回目に策定されたものとなります
2011年 原子力事故、緊急特別事業計画策定
2012年 総特(第1次)
2013年 新・総特(第2次)
2017年 新々・総特(第3次)
2021年 第四次総特(第4次)
初回策定時の総特から新・総特まで1年しか経っていませんが
初回に策定された総特は、原子力事故という未曽有の事態から約1年という超短期間で策定されており、
いわば緊急的に策定されたことも背景にあったようです
新・総特に以下のような記載がありました
「総特」は事故後1年余の時点で策定したため、
福島原子力事故の被害の広がりや復興の道筋を十分に見通した計画とすることはできなかった。引用元: 新・総特(第2次総特)p4
投資家視点でのポイント
総特には今後の東電の方向性を把握するうえで、極めて重要な情報が散りばめられています
東電が今後行うほぼ全ての施策は、この総特に基づいて実行されているといっても過言ではありません
総特には膨大な情報量が記載されているため、今回はその中でも
投資家の視点で重要と思われるポイントに焦点をあてて説明をしていきます
ポイントは以下2点です
- 資本市場への回帰(経営評価)
- 配当復活(復配)
それぞれ説明していきます
資本市場への回帰(経営評価)について
現在、東京電力は一時的公的管理下に置かれています
東京電力が公的管理下からの状況を打破し、資本市場への回帰を図るためには
約3年ごとに行われる国からの「責任と競争に関する経営評価」による判断が必要です
上の表にて、経営評価の結果をまとめてみました
結論から言うと、第4次総特では継続的関与が必要という評価がされています
ここで、「責任」とは、言うまでもなく福島の復興への責任であり、
「競争」とは、経営改革(企業価値の向上)のことを指しています
経営評価のポイント
経営評価(自律的運営体制への復帰)には以下3点がポイントとなります
- 賠償・廃炉を完遂できる能力を身に着けること
- そのために確保すべき資金の長期的な見通しの蓋然性を高めること
- その原資を捻出するための安定的かつ十分な財務基盤を確保すること
総特中には、この公的管理下から脱却(自律的運営体制への復帰)するために
必要な要件について言及されている箇所があります
東電が自律的運営体制に復帰するためには、
賠償・廃炉を完遂できる能力を身に着けること、そのために確保すべき資金の長期的な見通しの蓋然性を高めること、そして、その原資を捻出するための安定的かつ十分な財務基盤を確保することで、福島責任の貫徹への道筋を示す必要がある。引用元: 第四次総特(第4次総特)p14
自律的運営体制への復帰に必要な条件として、上記にまとめた3点が記載されています
3点の条件をクリアすることが、福島責任の貫徹への道筋を示すことに繋がると読み取れます
そしてこの条件について、後述する「配当復活」に必要な条件と同じような項目が多いと感じます
「配当」に必要な条件について、現在の評価状況と合わせて整理しましたので、
上記の3点を念頭に置きながらご覧頂ければと思います
(評価状況について、あくまでフリード個人の感想ですので参考程度として頂ければと思います)
また、東京電力の資本市場の回帰とセットで、公的資本の回収方法についても議論がされています
総特の中でも、特に投資家視点では非常に重要な部分になってきますので、
過去の総特も振り返りつつ、第四次総特の経営評価を確認していきます
総特(第1次総特、2012年)
第1次総特(総特)では、以下のように記載されていました
機構は、
東電の集中的な経営改革に一定の目途がつくか、又は社債市場において自律的に資金調達を実施していると判断した段階で、(略)一時的公的管理を終結(略)
(中略)
一時的公的管理終結後、(略)適切な時期に東電による機構所有株式の取得、普通株式への転換による株式市場への売却等によって、早期の出資金回収を目指す。引用元: 総特(第1次総特)p89
経営改革に一定の目途、または、自律的に資金調達を実施していると判断した段階で公的管理を終結するという記載がされています
第2次総特(新・総特、2013年)
第2次総特(新・総特)では、第1次総特(総特)で言及された
「経営改革に一定の目途」について具体的な指針が示されました
2016年度末に、機構は、社外取締役・国と協議し、
「責任と競争に関する経営評価」を行い、段階的以降の適否に関する評価結果を公表する。
その後、機構は、原則として3年毎に経営評価を行い、国・社外取締役と協議し、その結果を公表することとする。(略)なお、2016年度末における評価のための項目・基準は後段に示す各分野の取り組み内容・スケジュールに基づき、機構が国・社外取締役と協議して2013年度中に定める。引用元: 新・総特(第2次総特)p14
そして、具体的なスケジュールとともに以下の記載がされています
機構による
2020年代初頭の経営評価において、さらなる進展が評価された場合、機構は、保有する議決権を順次3分の1未満へ低減(種類株式の転換)するとともに、東電は、配当の復活または自己株式消却を開始する。
機構による2020年代半ばの経営評価において、同様に進展が評価された場合、機構は、一定の株価を前提に、保有株式の市場売却(普通株式への転換後)を開始する。引用元: 新・総特(第2次総特)p14
配当の復活や株の市場売却等、具体的に言及されていることが分かります
第3次総特(新々・総特、2017年)
第2次総特で指針の示された経営評価に対して第3次総特では、初めての評価結果が示されています
2016 年度末の評価において、機構は、
東電経営への継続的関与が必要であると判断した。(略)このモニタリングの結果に基づき、機構は、国と連携して、2019 年度末を目途に同年度以降の関与の在り方を検討する。
(中略)
公的資本回収の手法についても、上記の国の関与の在り方と併せて検討していくことが必要である。(略)機構が保有する東電HD 株の売却のみに手法を限定せず、東電が共同事業体に対して保有する持分の取扱いも含め幅広く検討する。この検討に資するため、機構は、専門的な知見を活用しつつ、共同事業体の進捗に応じて企業価値を逐次評価していく。引用元: 新々・総特(第3次総特)p7
継続的関与が必要であり、公的資本回収の手法と合わせて検討すると言及されています
第4次総特(第四次総特、2021年)
そして今回、第4次総特における評価について以下の評価結果が示されました
機構は、引き続き、
東電経営への継続的関与が必要であると判断(略)概ね3 年後を目途に、国と連携して、国の関与の在り方等について検討していく。
また、機構は、できるだけ早期の公的資本の回収を図っていく(略)機構が保有する東電HD 株の売却のみに手法を限定せず、東電が共同事業体に対して保有する持分の取扱いも含め、幅広く検討する。その際には、共同事業体の価値評価など、企業価値向上に向けた措置を講じる。引用元: 第四次総特(第4次総特)p14
結論から言うと、第3次総特と同様、
継続的関与が必要であり、公的資本回収の手法と合わせて検討するという評価でした
評価結果は第3次総特と同じなのですが、少し表現に変化のあった部分に注目したいと思います
公的資本回収に関して、第3次総特では企業価値を逐次評価するとされているのに対して、
第4次総特では企業価値向上に向けた措置を講じると一段階強い表現になっています
個人的には企業価値という表現から、共同事業体の上場を連想していますが
どのように「措置を講じる」のか楽しみですね
また、企業価値の向上が公的資本回収を目的としているということも改めて意識しておきたいところです
配当復活(復配)について
配当復活(復配)に関して、ポイントとなるのは以下3点です
- 収益・債務の状況
- 賠償・廃炉に係る東電の支払いの実績及び見通し
- 公的資本の回収手法
上の表にて、配当復活に関する記載について評価状況と合わせて整理してみました
表中、「○・△・×」はフリード個人の感想ですので、参考程度に留めて頂ければと思います
結論から言うと、第4次総特では、「収益・債務の状況」と
「賠償・廃炉に係る東電の支払いの実績」に関しては評価されている印象を受けました
今後、「賠償・廃炉に係る東電の支払いの見通し」の確実性を示すことが必要条件になると考えています
配当復活(復配)に関して言及されている箇所
配当に関して言及されている箇所を以下に抜粋します
第1次総特から通して比較すると、第3次総特以降、今後の配当(配当復活)について言及されていることが分かります
まず、第1次総特です
東電は、今回の事故発生後の厳しい財務状況等に鑑み、2011年3月期期末配当及び2012年3月期中間配当について、配当を実施しなかった。今後においても、国民負担の最小化の観点から、
当面の間、無配を継続することを株主に対して要請する。引用元: 総特(第1次総特)p90
当面の間、無配を継続と明言されていることが分かります
続いて、第2次総特です
東電は、福島原子力事故発生後の厳しい財務状況等に鑑み、2011年3月期末以降の配当(中間配当を含む)を実施していない。今後においても、国民負担最小化の観点から、
当面の間、無配の継続を容認することを株主に対して要請する。引用元: 新・総特(第2次総特)p81
第1次と同様、当面の間、無配を継続と明言されていることが分かります
そして、第3次総特と第4次総特です
第3次総特と第4次総特は、ほとんど同様の記載がされていることが分かります
以下、第3次総特です
東電HD は、福島原子力事故発生後の厳しい財務状況等に鑑み、2011 年3 月期末以降の配当(中間配当を含む)を実施しておらず、引き続き、株主に対しては、
無配の継続を容認していただくことを要請する。なお、今後の配当については、収益・債務の状況、賠償・廃炉に係る東電の支払いの実績及び見通しを踏まえながら、公的資本の回収手法と併せて検討していく。引用元: 新々・総特(第3次総特)p54
最後に第4次総特です
東電HDは、福島第一原子力発電所事故発生後の厳しい財務状況等に鑑み、2011年3 月期末以降の配当(中間配当を含む)を実施しておらず、引き続き、株主に対しては、
無配の継続を容認していただくことを要請する。今後の配当については、収益・債務の状況、賠償・廃炉に係る東電の支払いの実績及び見通しを踏まえながら、公的資本の回収手法と併せて検討していく。引用元: 第四次総特(第4次総特)p94
第1次と第2次では当面の間、無配を継続という記載のみでしたが、
第3次以降では、今後の配当(配当復活)について言及されていることが分かります
そして、今後の配当(配当復活)について言及されている部分を抜粋すると、
「収益・債務の状況、賠償・廃炉に係る東電の支払いの実績及び見通しを踏まえながら、公的資本の回収手法と併せて検討していく。」と記載されており、ポイントとなる部分が明記されています
それぞれの項目について、現状どのような評価を受けていると考えられるか整理していきます
収益・債務の状況
第4次総特では、収益・債務の状況に関して以下の通り一定の評価を得ているようです
東電は、新々・総特策定以降、カイゼン活動を始めとした生産性改革やコストダウンの深掘りに取り組み、
一定の収益基盤を確保してきた。(略)引用元: 第四次総特(第4次総特)p38
この文章の後、事業環境の変化について触れられているものの
(現時点における)収益確保の観点では評価を得ていると読み取れます
一方で、継続的な利益確保に関しては以下の記載の通り、まだ道半ばという評価がされています
事業構造を変革して
将来的に安定的な利益を確保する目途を立てるには至らなかった。引用元: 第四次総特(第4次総特)p9
ちなみに、第3次総特は以下のように評価されていました
「事業競争力の強化」や「自律的な資金調達」については、福島に持続的に貢献していくため、更なる企業価値向上施策等を通じ、
より一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要と認められた。引用元: 新々・総特(第3次総特)p3
つまり、第3次総特にてより一層の収益力の改善や財務体質の強化が必要とされているのに対して、
第4次総特では、一定の収益基盤を確保してきたと、前回よりも評価されていると考えられます
賠償・廃炉に係る東電の支払いの実績及び見通し
続いて、賠償・廃炉に係る東電の支払いの実績及び見通しに関しては、「実績」については評価を得ていると読み取ることができ、今後、「見通し」に関して示すことが必要になると考えられます
理由は、第3次総特における目標であった、賠償・廃炉に関する年間約5,000億円の確保に対して
第4次総特では、約4,000億円~5,000億円程度の資金を捻出したと記載があるためです
第3次総特では以下のように目標について記載されています
賠償・廃炉に関して年間約5,000 億円を確保(2016 年度実績約3,000 億円)する。引用元: 新々・総特(第3次総特)p6
2016年度実績、年間3,000億円確保していた資金を
年間約5,000億円に引き上げて確保することが目標として掲げられていることが分かります
そして、第4次では同箇所について、以下のように記載されています
新々・総特策定以降の4 年間(2017 年度から2020 年度)においては、現下の厳しい事業環境下においても生産性改革に取り組み、
賠償・廃炉のために年約4,000 億円から5,000 億円程度の資金を捻出してきた。
(中略)
今後も福島責任を貫徹していく観点からは、引き続き、賠償・廃炉に必要な資金を安定的・計画的に拠出し続けることが必要である。引用元: 第四次総特(第4次総特)p5
年間4,000~5,000億円を捻出してきたと言及されているため、
目標に掲げていた年間約5,000億円に達していると評価を受けていると考えられます
そして、引き続き安定的・計画的に拠出することが必要とも記載されていますね
公的資本回収の手法
最後に、公的資本回収の手法についてです
公的資本回収の手法に関しては、
資本市場への回帰(経営評価)に関する部分において以下の2つを検討していると記載がありました
- 東電HD株の売却
- (東電が保有する)共同事業体の取り扱い
この記載から、個人的には東電HD株の売却(試算額1,500円、詳細は別記事参照)に加えて
共同事業体の上場を検討しているのではないかと考えています
特に、第4次総特においては「その際には、共同事業体の価値評価など、企業価値向上に向けた措置を講じる」とかなり強い表現が用いられていることから、今後どのように「措置を講じる」のか楽しみです
そして、資本市場への回帰(経営評価)とともに、配当に関する部分においても
「公的資本回収の手法」と合わせて検討すると言及されています
つまり、配当復活に関する記載を考慮して改めて「公的資本回収の手法」を振り返ると
上記の2つに加えて、配当による回収を検討しているようにも読み取れます
- 東電HD株の売却
- (東電が保有する)共同事業体の取り扱い
- 配当による回収(?)
あくまで推測ですが、株式の売却による一括回収と合わせて、
配当金による回収も視野に検討されているのではないでしょうか
配当による回収という観点では、現在行われている産業投資(財政投融資)が参考になると考えています
産業投資(財政投融資)とは、国が保有している、かつての電電公社(現NTT)や専売公社のたばこ事業(現JT)の配当金を原資として行っている産業の開発及び貿易の振興のための投資です
現在行われている産業投資のように、国が保有する株式の配当金によって
公的資本回収を図ることも検討されているかもしれません(あくまで推測ですが、、)
まとめ
今回は第4次総特が公表されたことに伴い、これまでの総特の歴史を振り返りながら
投資家の視点で、資本市場への回帰(経営評価)と配当復活(復配)に焦点をあてて読み解きました
総特には今後の東電の方向性を把握するうえで、極めて重要な情報が散りばめられており、
東電が今後行うほぼ全ての施策は、この総特に基づいて実行されているといっても過言ではありません
また、経営評価に関しては、前回(第3次総特)と比較して評価を受けていると考えられ、
経営評価と配当、そして公的資本回収が密接に関係していることが分かりました
今後様々な施策が発表される時に、総特の内容を意識することで見え方が変わるかもしれません
最後に、繰り返しになりますが、本記事に記載している内容は
フリード個人の考えを記載したものであり、参考程度に留めて頂ければと思います
ではではっ
おまけ~事業再編の可能性について~
本記事では、資本市場への回帰(経営評価)と配当復活(復配)について焦点をあてました
総特には、その他にも極めて重要な情報が散りばめられています
情報量が膨大であるため、その全てを記事にすることはできませんが、今後大きな動きとして
事業再編の可能性について言及されている箇所がありましたので、ちょこっと紹介しておきます
(略)
価値の創出に大きくは貢献できない、又は不採算の事業については、積極的に撤退・縮小を断行していく。事業の選択と集中を行うに当たっては、経営資源の配分に大きな傾斜をかけ、大胆かつ迅速に実行することで、グループ全体の事業ポートフォリオを、「カーボンニュートラル」や「防災」を軸とした価値提供を実現し、かつ資本効率が高いものへと再構築していく。引用元: 第四次総特(第4次総特)p41
上記のように、今後、不採算事業については選択と集中を行っていくことが明記されており、続いて
カーボンニュートラルや防災を軸として、資本効率が高いものへと再構築していくとも記載されています
このような事業再編の動きについて、個人的には、あくまで福島責任の貫徹、公的資本回収を目的とした企業価値向上のための手段の1つという理解でいますが、今後目に見えるかたちとして公表される際には、注目を集めそうですね
おまけのまとめ
最後に事業再編に関して言及されている箇所について、ちょこっとだけ紹介しました
今後、具体的な動きがあった時に、総特の内容を意識することで情報の繋がりを感じることができますね
参考になれば嬉しいです
ではではっ